MANGAフェスティバルの内容/秋葉原エンタまつり 1日目講演要旨

1時間目 基調講演「MANGAとニュージャポニズム
経済産業省 商務情報政策局 文化情報関連産業課 課長 前田泰宏

現代では大きな物語が解体され、小さな物語が無数に生まれているという説がある。すなわち、社会規範のような、「生存の共同体」として全世代に持たれていた共通の意識が姿を消し、社会が「趣味の共同体」へと断片化されていく、というものである。

マンガにおいても、そのストーリーはキャラクター単位に断片化される。キャラクターは読者の間で自己増殖的にまたストーリーとして再構築され、キャラクターを中心とした小さな趣味の共同体がここに生まれるのである。

そこでは、双方向的なメディアが強力なツールとして存在感を増している。情報の受容者から発信者になることを望んだ消費者が、断片化された世界で狭いコミュニケーションを楽しんで、いや、それに依存しているのである。

しかし、環境問題、テロリズムといったグローバルな問題に対処するためには、世界が共通の意識を持たざるを得ない。出版という一方的な情報伝達メディアは、共有されるべき社会へのメッセージを伝えるポテンシャルを持っているのではないだろうか。

小さな物語を極めた人たちの例がある。ひきこもりだった彼は、「磨き」の技に出会い、ただひたすら磨きを極めることで、世間に通用する商品を生み出し、今では後進の指導にもあたっている。ある自殺志願者、彼は死に場所に向かうが行き先を間違えたどり着いた地で、金属加工業の仕事を始めることになる。やがてその技術を認められるほどになるが、けがをしたことをきっかけにギブスの開発を志し、今では高付加価値の商品を開発し、社会に貢献している。

この事例は、小さな共同体を根元まで突き詰めるとそこには大きな物語に通じる共通の根本があることを示しているのではなかろうか?

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MANGAとはあんまり関係ない話で、しかも経産省本省の課長ということで偉そうでしたが(笑)、公演内容は示唆に富んでいて面白かったです。しかしまとめるのが難しい内容でこの要旨はたぶん10点ぐらいだと思うw

断片化された自己増殖する世界というのは、たとえば社会の中のオタク、それもアニメオタクというカテゴリーに属している彼は涼宮ハルヒの憂鬱が大好きで、というか鶴屋さんが大好きで、というかちゅるやさんが大好きで、ちゅるやさんに萌え萌えてしまった結果ちゅるやさんの同人誌を出すようになってしまった。というような。ちゅるやさんワールドなんてハルヒの原作からはありえない話ですよね?

こういう断片化された属性をいくつか持っているけれど、大きな社会の流れ(というものがあるのなら)からは切り離されてしまっているのが、今のオタク、というよりは今の人間だ、って話。

自分が疑問に思ったのは、なぜ共同体が断片化されているか、という話。小さいフィールドで話をする方がコミュニケーションが取りやすい、という話だったかな?(あんまり覚えてない) でも個人的には、ニュースのまとめ系記事が人気になる(このマンガがすごいとか、経年的エロゲ売り上げ比較とか、そんなの)のを見るに、単にフィールドをみじんぎりして小さくして話す方が楽だからそっちに流れているだけという気がする。

情報を統合して大きな流れの中での立ち位置を提示できる能力がある人がいて、それを求める人がいる限り、双方向メディアが大きな物語を再構築する可能性もあるんじゃなかろうか?と思うのです。それって国の仕事なんだけどw

2時間目 USAマーケット事情
TOKYOPOP 代表取締役 スチュウアート リービー

アメリカは実はコミックの歴史が長い国で、アメコミには100年の歴史がある。しかし、60−70年代の表現規制の影響で、市場からは恋愛物が消えて、スーパーヒーローばかりになってしまった。そこで、コミックに飢えていた女子ティーンエイジャーに受け入れられたのがマンガなのだ。

マンガは、女の子の、11−26歳を中心に読まれている。実際、女の子の平均マンガ購入数は6−8冊/年、男の子は3−4冊/年である。

10代を対象に調査したところ、マンガというものを聞いたことがある人は20%、実際に買ったことがある人は10%だった。

マンガの市場規模は、2001年の約35億円から、2007年には400億円程度にまで急拡大している。(注:日本は5000億規模)

アメリカでのマンガ拡大に一役買ったのがバラバラだった判型の統一とブランドとしてのディスプレイ展開。欧米流の左開きから日本流の右開きへの転換も成し遂げ、今では右開きがスタンダードとなっている。(左開きの場合、絵を反転させる必要があるので右利きのキャラが左利きになる、セリフでない擬音が反転できない、また、反転すると構図が崩れるという人もいる)

日本のいわゆるフィルムコミックも、日本のアニメをベースにして売り出すことには失敗したものの、ディズニー映画のフィルムコミックは子供達に人気を呼び、マンガ市場の拡大に貢献している。

ライトノベルも売り出しているが、マンガに比べた翻訳の困難さもあって苦戦している。また、新聞にマンガを載せる(アメリカでは新聞の人気が落ちていて効果は限定的だったらしい)、図書館にマンガを導入、などの市場開拓を行っているる

今後の展開としては、日本・韓国のマンガの翻訳を軸としつつ、世界中の才能を集め、自ら編集して出版する事業にも取り組みたい。(新人賞も企画していて、最初からいきなり1000作品もの応募があったとか)

また、映画・ゲーム原作のマンガの開発や、逆にマンガのメディアミックスにも携わりたい。

アメリカではフルーツバスケット・ブリーチは大人気だが、ワンピースはそれほどでもないらしい。
※将来的には大人をターゲットにすることも視野に入れたいが、いまのところはティーン層の認知度拡大が急務と考えている。

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アメリカ人さん。さすが実業家といった感じでわかりやすく、とてもおもしろかったです。

世界ではマンガがすごい!といったイメージがありますが、それでもアメリカのティーンの認知度は20%にとどまるということで、結構意外な感じ。

今では大人がマンガを読むのは恥ずかしいといった雰囲気だそうで、この認識が世代交代とともに代わって行くにつれて市場はまだまだ拡大する余地がありそうです。

個人的にはdojinshiの現状とそれへの対応についても聞きたかったですけど(カナダのお友達は普通には買えないからeBayで落としてるって言ってました。ビジネスとして展開する余地はありそう)、現状を聞く限りはかなりニッチなものになりそうですね・・・

3時間目 ヨーロッパマーケット事情
日本貿易振興機構ジェトロ)パリセンター次長 豊永真美

フランス:男の子向けが6割、しかし大ヒット作に売り上げが集中(上位5作品で40%ぐらい)

ドイツ:フランスと比べればロングテール効果が効いている。女の子向け6割。

スペイン:ドラえもんクレしんなどアニメの人気は高いが、マンガの売れ行きはいまいち。

アニメとマンガの視聴層が違うのか、相乗効果を発揮するのが難しい状況。

フランスはマンガは広く受け入れられているが、他国の文化に対する微妙な気分もあるらしい。

市場への参入に当たっては、強い財務基盤を持つところはいいが、たくさんある中小の会社にライセンスアウトしても、株主が代わってしまい、想定外の使われ方をすることはよくあるので、十分に注意すべきである。

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うーん。いまいち。

統一感のある話ではなくて散発的にまとまりのない情報が出てきた感じ・・・最後40分は20秒でまとめられることを延々と事例紹介してたし・・・
このへんが本省課長(当然キャリア官僚)と独法の人(当然ノンキャリア)の違いかなあ、とか言ったら怒られるか。

4時間目 アジアマーケット事情
日本貿易振興機構ジェトロ)輸出促進課 課長代理 中澤義晴
講談社 ライツ事業局 国際ライツ管理部 部長 角田真敏

現在の版権収入は、おおざっぱに言ってアジア:欧米が1:1。台湾韓国で7割を占め、続いて香港・タイ。中国の市場はまだこれから(後述)、東南アジア方面にも進出を始めていて、インドにも行ってる出版社もあるらしい。

台湾・韓国では、貸本屋がマンガ普及のベースになっている。書店が十分にないこともあって、多くの子供達が貸本屋を利用している。

香港では、ニューススタンドでの販売が主で、新刊しか売られないという問題点もある。

中国では出版に政府の許可が必要であり、(国産のマンガを育成しようと言う政策の存在もささやかれているが)1年に2〜3作品しか許可されていないのが現状。

80年代からマンガタイトル単発のライセンスとしてアジア進出を始めたが、90年代からは雑誌を売り、あとからそれをまとめた単行本を売り出すというビジネスモデルを展開している。実際、マガジンと提携している韓国の雑誌もあるんだそうで。

しかし、このモデルは必ずしも成功しているわけではなく、たとえば香港ではいまいち。中国では雑誌の発行に許可がいる上に、単行本にまとめるときにも新しい許可が必要でそれが必ず降りるとも限らないので、進んでいない。

そこで中国ではネット雑誌の発行も行ってみたが、不評のため中止に追い込まれた。しかしネット単行本は好調で、今後に期待が持たれる。

アジアで人気のあるマンガの傾向は日本と比較的似ている。また、日本の情報がすぐに入ることもあり、のだめカンタービレは日本でのドラマ放映と同時に韓国でブレークした。

その他、各国の事情としては、中華圏での三国志人気、スポーツの人気格差(台湾でのサッカーや、タイでの野球。まるでダメ)、また、ギャグマンガは解釈のために背景知識が必要なため海外進出は難しい。

問題となっている海賊版対策だが、とにかく正規版を発行することが何より重要。日本とアジア圏で同時に発売することが本当は理想的。また、現地ライセンシーと協力して積極的に海賊版を取り締まることも重要である。

右/左開きの問題はアジアでもあり、たとえば韓国とタイは左開き。普及活動の結果、タイの一部の幼児向けのマンガを除いては右開きに統一されつつある。

97年の通貨危機以前はマンガは刷ればいくらでも売れる時代だったが、今では売り上げは横ばい状態であり、手をかけて売ることが必要になってきている。

まだマンガの歴史が浅いこともあって(日本はすでに50年の歴史がある)読者層は子供中心であり、青年・成人向けのマンガはまだ伸びていない。しかし、台湾・韓国では青年層にまでマンガの読者層が広がりつつあるようだ。

外部との関わりも重要になってくる。たとえばワインマンガの「神の滴」は、韓国でワインブームを巻き起こし、単行本の売り上げは日本よりも韓国の方が上になっている。

海外のマンガ作家についても、少しずつ採用を広げている。新人賞にも国際部門が設置されるとのこと。

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民間でビジネスをやっている人の話だけあって臨場感溢れてました。ちょっと話がそれてそれて、って感じはあったけどねw

欧米ではいまいち萌えが理解されていないようなところがあるのに対して、アジアでは(タイあたりまで)萌えまくっているそうです。

雑誌→単行本のモデルってどうなんでしょうねえ。出版の人はこだわっているところが感じられますけど、日本でも先は暗いわけで・・・ARIAの最新話が1ヶ月100円で毎月メールで送られてくるんならそれって結構いいんじゃない?とも思うんですが、こういう切り売り型に展開することはできないんでしょうか?

韓国で書店網が発達してないから貸本屋、と言う話では、ネット通販の普及で次第に状況が変わっていくのだろうか(2001年には韓国アマゾンの売り上げは日本より多かったらしい←それしかデータが見つからないんですが)、それとも貸本モデルの前に出版物自体が売れない状況なのか、どっちなのか気になりました。

もっとも、特にコアなマンガの購入層は日本では20代だと思うので、マンガの購買層の変化でいろいろと変わってくるのかもしれません。オタクグッズとかDVDとかの市場ではマンガ以上に購買層の変化は効いてくるかと。というかその辺質問したかったのですが、質問時間短すぎです。

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会場の様子はアキバblogさんでも公開されてます〜。
http://www.akibablog.net/archives/2007/10/manga-festival-071026.html